第1回 噛んで健康
第2回 虫歯予防って歯みがきだけ
第3回 歯は「治す」から「防ぐ」時代へ
第4回 歯周病の最近の研究から〜明らかになる全身との関係〜
第5回 誤嚥性肺炎と口腔ケア
第6回 よく噛んで歯から健康
石川 昌彦
平成23年5月
 
 


高齢化社会を迎えるにあたって、いかに健康に自立して生きていくかが大きなテーマです。では、高齢になっても生き生きとした毎日を送るために、全身の健康と密接につながるといわれている歯周病を予防して歯を守ることは、どのような意味があるのでしょうか?
 最近では噛むことの重要性がいわれています。体内の細胞の膜を酸化させ、病気や老化を招くものに、活性酸素というものがあります。ネズミの実験データでは、ネズミにストレスを与えると脳内の活性酸素の量が増えますが、木の棒を噛み続けることで活性酸素の量が減ることがわかっています。噛むことで活性酸素を減らし、ストレスを解消することができるのです。また、血管の老化、脳の老化を防ぐためにもよく噛むことは重要といわれています。しかし、歯周病で歯を失ってしまうと、それができません。
 年を重ねても楽しめるものとして、おいしいものを食べたり、おしゃべりしたりすることがありますが、ここでも欠かせないものは、健康な歯です。
 最近の調査では、むし歯よりも歯周病で歯を失う人が多いこともわかっています。
 では、歯周病予防はどうすればよいのでしょうか? まず大切なのは毎日の自己管理です。食後の歯磨きは欠かさず実践しましょう。1日1回は、10分くらい時間をかけ、力を入れずにていねいに、歯を2本ずつくらいを目安に順序よく磨いてみましょう。テレビを見ながらの「ながらブラッシング」もお勧めです。また歯ブラシだけではなく、歯間ブラシや糸ヨウジを使って、丹念に磨くことも大切です。
 ただ、それでも届かない部分はあります。そのためにも定期的に歯科医院で歯垢や歯石を除去する「スケーリング」を受けられることをお勧めします。その際に歯磨きの方法もチェックしてもらうといいでしょう。碧南市、高浜市で実施している節目健診を積極的に利用して受診されるのもいいと思います。
 また、生活習慣の改善も重要です。たばこは歯周病の発症の危険性を高めます。間接的に煙を吸う人も同様です。自分はもちろん、周囲の禁煙も勧めましょう。食生活も見直し、適度な運動でストレス解消することも重要です。最近メタボリックシンドロームという言葉が話題になっていますが、肥満と並んで歯周病も危険因子のひとつといわれています。
 老後を生き生き過ごすためにも、歯周病をしっかり予防して、健康的な生活を送りましょう。

以 上

 
 
石川 昌彦
平成22年2月
 
 


日本人の三大死因は、がん・心疾患・脳血管疾患ですが、第四位に肺炎が入ることは意外と知られていません。そして、肺炎で亡くなる方のほとんどが高齢者なのです。碧南市の平成十七年〜十九年の統計でも、肺炎で亡くなられた方は、全て六十五歳以上の高齢者でした。
 医学が進歩して、脳血管疾患で直接死に至ることが少なくなっても、高齢者の場合、最期の引き金を引くのは、誤嚥性肺炎が多いのです。これは食道を通って胃に行くべき食べ物や水分などが、気管から肺に入るために起きます。若年者ですと誤嚥すれば咳き込むことにより、誤嚥したものを吐き出すことができますが、年をとってくると咳反射で誤嚥したものを吐き出す機能も衰え、吐き出せずに危険な状態になります。老化による誤嚥も、脳血管障害で反射が起きにくくなる誤嚥も食い止めるのは難しいのです。
 誤嚥が避けられないとしたら、誤嚥性肺炎をどう防ぐか。誤嚥する中身を減らすのです。一番問題なのは口の中の細菌ですから、口腔ケアが大切になってきます。
誤嚥性肺炎は、ひとたびかかると非常にやっかいで、繰り返し起こりがちです。そのため、予防が大切で、口の中と義歯を清潔にして、誤嚥物をできるだけ少なくすることが最良の対策です。また、日頃から口腔内に関心を持ち、虫歯を治療したり、不適合な義歯を調整しておくことも忘れてはならないことです。
 口腔ケアを励行することによって、細菌が減って歯科疾患や誤嚥性肺炎の発生率が減るだけでなく、歯ブラシによって粘膜の知覚神経を刺激することで、嚥下反射、咳反射も活発になるという調査結果も出ています。また口腔ケアには機能的ケアもあります。唾液腺マッサージをして唾液の分泌を促したり、舌の体操で嚥下機能を回復させたりします。お年寄りは、薬の副作用で口の中が乾燥している方が多いのですが、唾液が少ないと食べ物の咀嚼、嚥下が困難になりますし、口腔内の自浄、殺菌作用も働きにくくなります。おしゃべりなどをして努めて口を動かしたり、水分を十分摂る、うがいを頻繁にする、歯をしっかり磨くといったことを自覚する必要があります。
 お年寄りの口腔ケアで忘れてならないのは、介護する人が全てやってあげるのではないということです。少しでも手が動くなら、たとえ不完全で介護者がやり直すことになっても、その残存能力をサポートしてあげるという工夫も大切です。あまり張り切りすぎて介護者が途中でギブアップしないような、中長期的な目標を持って維持することのできるマラソン型の口腔ケアに取り組んでいただきたいと思います。

以 上

 
 
小林 正人
平成18年5月
 
 


 「テレビでやっとったけど歯槽膿漏をほうかっとくと、そのバイ菌が体中にまわって手や足の先が腐ることがあるゲナね、怖いがね、先生それホント?」なる主旨のお尋ねを最近診察や健診時に患者さんからよくいただきます。メディアは耳目を集めるのが生業ですから鵜呑みは禁物ですが、あながち大げさでもないと言えます。
 歯周病は以前から一般的に「歯槽膿漏」といわれており歯茎が腫れたり痛んだりして悪化すれば歯がグラグラになり、いずれ歯が抜けてしまう病気のことをさしています。
 さてここで話は若干飛びますが、みなさん「8020運動」や「健康日本21」をご存知でしょうか?「8020運動」は歯医者で聞いたことがある方が多いと思います。80歳で20本の健康な歯を保ちましょうという運動です。では「健康日本21」はどうでしょうか?医療関係者や保健行政担当者でなければあまりしらないでしょう。では、「健康増進法」はどうでしょうか?愛煙家には耳の痛いあの「受動喫煙の防止」を明記した法令であることから認知度は高いようです。平成15年のこの法の施行後あらゆる公共施設から灰皿が無くなりました。さて、この「健康日本21」は「21世紀における国民健康づくり運動」を主旨に、2001年から2010年の間に達成努力する具体的な9つの項目を掲げ目標数値等を明記しているのが特徴です。この9つの目標には「栄養・食生活」、「身体活動・運動」、「休養・心の健康つくり」、「たばこ」、「アルコール」、「糖尿病」、「循環器病」、「がん」、と並んで「歯の健康」というのが明記されています。また、「健康増進法」にも「歯の健康」に対する知識の普及と健康増進が明記されています。
 そして、「健康日本21」「健康増進法」と深い関係にある介護保険に今年度から予防給付というものが追加され、「口腔ケア」が項目として含まれます。これらは言い換えれば他の生活習慣病などと同じく歯の健康を損なえば健康増進にマイナスであると同時に歯を健康に保つことが要介護にならないことにプラスであることが分かってきているからです。いわゆるQOLの向上にも役立つ根拠がいろいろわかってきているのです。
 また、歯を維持することと同時に口腔内を清潔にすることが健康増進に寄与することが分かってきました。これは歯周病の予防と同じ意味であり、最近特に全身疾患との関係でいろいろな研究結果が明らかになってきているから言えるのです。ここでいう最近とは90年代後半からのことです。では、それらの一部を具体的に説明しましょう。
 まず、糖尿病との関連です。かつては、好中球の機能異常による易感染性が中心でしたが最近の研究ではそれに加えて歯周病による歯肉の炎症性サイトカインの異常亢進により2型糖尿病患者の糖化ヘモグロビン(HbA1c)値への影響が示唆される研究結果が発表されています。
 次に心疾患との関連です。冠動脈疾患の主な原因に動脈硬化が挙げられます。この動脈硬化は血管の内皮細胞アテローム性プラークが沈着して血管壁を狭くしていく病気ですがこれに特定の歯周病原性細菌が内皮細胞に多く付着し血小板の凝集を誘導し血栓形成に関与していることを示唆する研究結果が発表されています。
 次に、呼吸器疾患との関連です。特に歯周病と誤嚥性肺炎との関係については口の中の細菌がどう影響しているかが分かってきています。それは単に口腔内細菌の肺への吸引によるもののみではなく、唾液中の歯周病原性細菌による炎症性サイトカインが誤嚥により呼吸器粘膜面を変化させ呼吸器感染症の病原体の付着,集落形成を促進させていることが分かってきています。誤嚥性肺炎とは本来入ってはいけないものが気管に入りそのために肺に起きた炎症のことです。その主な原因には食事中のむせや睡眠中無意識に唾液とともに歯周病原性細菌などが気管に進入する不顕性誤嚥があります。ですから食事がうまく飲み込めない高齢者や神経麻痺などで嚥下障害のある方で歯茎にも問題のある方は要注意です。
さて、いままで挙げた疾患以外にも低体重児出産や噛み合わせと認知症などとの関連が現在も研究されておりいずれ明らかになるでしょう。
 昔から歯周病を予防することは単に口の中の細菌を歯磨きで減らし「抜歯にならないように歯の健康を維持すること」でした。しかし他の疾患と影響しあう研究結果が発表されるようになってくると「歯周病予防が全身的な健康増進に関係する」ということがだんだんわかってきました。
超高齢社会を背景に「健康増進法」にも代表されるように各個人が健康維持し高齢者になっても要介護にならない生活をすることを幸か不幸か国策とする現在の日本です。
 このためというわけではありませんが歯科医学分野では歯周病と全身の様々ないわゆる生活習慣病との関連が今後の研究の軸となる傾向は続くと思われます。
 是非、健康増進の思考のなかに歯周病対策を含めていただきたいと我々碧南歯科医師会会員は考えております。

以 上

 
鈴木 健三
平成18年4月
 
 


 
 歯科医院で治療した歯は表面にしっかり金属のつめものがしてあったり、冠が被せてあったりと大変頑丈な作りになっているように見えます。治療が終わればもう二度と歯科医院のドアを開けずにすむと皆さん一安心されると思います。それでも「人生は1回、石橋を叩いて渡りたい」方に豆知識を一つ提供いたします。
治療を行った歯(むし歯)が再び細菌に感染し、ムシ歯になることを「二次うしょく」と言います。
歯の治療が済むとすっかり安心してしまい、次にムシ歯や歯周病の症状を感じるまで歯科医院で受診しない方がいますが、その期間の油断がこの二次うしょくの発生を促してしまうのです。そして、これらの原因のほとんどが不充分なブラッシングにあります。
ムシ歯や歯周病は歯ブラシの届きにくい所や目で確認しにくい所など、手入れの行き届かない場所に発生するものです。こんな理由から治療が済んで安心するのではなく、以前にも増して、きめ細かなハブラシを行う必要があるのです。そしてさらに大切なのが歯の定期健診の習慣をつけることです。
ムシ歯でも歯周病でも一度見つかれば何度か通院する必要があります。忙しい方ほど自覚症状があっても敬遠したい気持ちはわからなくもありません。けれども少なくとも一年に一度、定期健診を行っていれば早期発見につながり、治療も短期間ですみます。
碧南市ではそんな人へのお手伝いとして成人、妊婦、30歳以上の節目ごとの方に無料で歯周病健診を行っております。歯科治療が何となく敷居が高いなと感じる方はまずこの健診を受診して下さい。「急がば回れ」これが自分の歯を守る一番の方法です。

 
水野 博史   
 

みなさん、むし歯予防といえば、まず思い浮かぶのが歯みがきでしょう。では、歯みがき以外に、何か実践していることがありますか。ご存知のように、むし歯は原因菌であるミュータンス菌が、食事等により摂取された糖を分解して、酸を発生させ、この酸により歯の表面が溶けだす病気です。図1のように、4つの因子が重複すると、むし歯になります。この内どれかひとつの因子が欠ければ、理論的には、むし歯予防は、達成されることになりますが、現実的には非常に困難です。それぞれの因子に対する対処方法を、上手に組み合わせて、4つの因子の重複を極力小さくすることが重要です。
 第一に、原因菌であるミュータンス菌を減らすためには、歯みがきによるプラーク除去が最も重要です。プラークとは、食べかすにミュータンス菌が住みついたものと思ってください。さらには、洗口剤の応用があります。
第二に、歯質の強化、つまり、溶けにくい歯にするためには、フッ素塗布、フッ素洗口、フッ素人り歯磨剤などのフッ化物の応用が有効であり、碧南市においては、乳幼児に対する定期的なフッ素塗布、小学校低学年児に対するフッ素洗口が、すでに実施されています。
 第三に、糖質の摂取の制限が重要です。しかし、現実的に食事の時に糖質を減らすことは困難ですので、1日3度の食事以外の間食時に、なるべく砂糖の入った食品は避ける必要があります。現在、酸の産生を起こさない代用甘味料がすでに使われており、コマーシャル等で知られているキシリトールなどがそれにあたります。さらに、キシリトールには、ミュータンス菌を減少させる作用があり、今後の、むし歯予防において重要な存在です。一般的に「シュガーレス」とか「ノンシュガー」と言われている食品は、糖類の含有量が0.5%未満ですので、歯に安心と考えてよいでしょう。他にも「特定保健用食品」あるいは、トゥースフレンドリー協会認定のマークのついた食品を選択するのも歯に安心と言えます。
 第四に、今まで述べてきた3つの因子が重複する時間を、できる限り短くすることが必要です。そのためには、キシリトール入りのガムなどを噛んで唾液分泌を促して酸を中和したり、食後と就寝前の歯みがきを実施したり、食品の食べ方を工夫したりすることも
必要です。1日3度の食事のたびに、口腔内のpHが酸性に傾きます。この状態が続くと、歯が溶けだし、むし歯になります。食事と食事の間に糖質を含むスナックなどを間食として摂取すると、歯に危険な状態がさらに続くことになります。特に、夕食後に歯みがきをしないで眠ってしまうと、就寝中は唾液分泌がほとんどなくなるため、唾液による酸の中和が期待できず、朝まで、口の中が、むし歯になりやすい状態になってしまいます。
 最後に、むし歯予防の基本を表す「4つ葉のクローバー」(図2)というものがあります。その中に、定期検診の項目があります。これまでは家庭内でのむし歯予防に関して述べてきましたが、これらの評価、つまり、かかりつけの歯科医によるチェックが重要です。現在、碧南市においては、乳幼児に対する定期健診、学校における歯科検診、成人に対する節目健診などが実施されていますが、それだけでは十分とは言えません。各家庭で、かかりつけの歯科医と相談し、専門医による定期検診や保健指導を受けることが大切です。 ご存知のように、歯科における2大疾病は、むし歯と歯周病です。これらは2つとも、いわば生活習慣病なのです。ですから、我々歯科医だけが努力しても予防はできません。個人個人が口の中に対して関心を持つことが一番の予防になります。 自分の歯で食べる喜びは、歯を失ってはじめて気づくのかもしれません。科学技術の進歩にともない、歯の代用物も発達をとげていますが、まだ天然歯には劣ります。自分の歯にまさるものはないのです。いつまでも自分の歯で食べられるように、日ごろのケアを大切にしましょう。


 
中根 逸朗   
 

 人間は食物をしっかり噛み砕くことにより体内に栄養を吸収しやすくします。そして唾液の分泌を促し、胃腸での消化作用・食物の毒性の抑制・発癌物質発生の抑制・エイズウイルスの不活性化等の抗菌作用・自律神経失調による肩こり、頭痛等不快症状の改善も期待できます。また性化しスポーツ能力向上・知能の発達・老化防止・肥満防止等多くの利点があります。
 しっかり噛むためには当然正常な歯並びでしかも虫歯や歯周病が無いことが条件です。
 三歳児の健診で、虫歯の多い子供は食物をよく噛めないので栄養の吸収が悪く、虫歯の無い子供より体重が2sも軽かったという結果も出ています。
 老年期で寝たきりになると、筋肉は一日に5%ずつ細くなり、骨は筋肉を支える必要がなくなるのでカルシウムが体外に排出され次第に細く萎縮していきます。二十歳代の健常者を三週間寝たままの状態に保つと、宇宙飛行から帰還した飛行士のようにやっと立つことは出来るが、歩いたり走るようになるまでかなりの日数を必要とするという実験結果もあります。口や顎の筋肉や骨も同様です。 また他臓器も機能低下し、無気力・無感動になり、これら廃用症候群が寝たきりをさらに悪化させます。
 寝たきり者が虫歯・歯周病を治療、義歯を装着することで食事が美味しく、楽しくなり栄養もうまく吸収できるので精神活動も向上して、ベッドから起き上がることが可能になった例も数多くあります。
 徳川家康は健康には気を使い、特に食事で一口四十八回噛むように指導し、粘り強い健康な将兵で三河軍団を作り幕府を成立させ痴呆もなく七十五歳まで生きました。
時間に追われる現代ですが、可能な限りゆっくりと、そしてしっかり噛んで自分の健康を保ちたいものです。